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転職ドラフトの「好きなエディタ」の分析 - 好きなエディタで提示年収は変わるのか -

 リブセンスでデータサイエンティストをしている北原です。ゆるめのデータ分析結果の紹介です。

 転職ドラフトでは好きなエディタを入力する欄があり、転職ドラフトReportにて人気エディタランキングが発表されてきました(2022年版, 2020年版, 2019年版)。その中に、提示年収別の好きなエディタの集計結果が載っていますが、提示年収が低くなるにつれて、人気No.1のVisual Studio Codeの比率が高くなることが示されています。おそらく、ベテランエンジニアほど昔からあるエディタを使い続け、初心者エンジニアほど最近勢いのあるVisual Studio Codeを使っているためでしょう。しかし、EmacsやVimを使いこなしていると凄みを感じるのも確かです。実際のところ好きなエディタが提示年収に影響しているのか気になったので、分析したのが今回の内容です。

好きなエディタ上位10件

 まず、2023年に好きなエディタがどうなっているかを見てみましょう。

 以下は、2023年にドラフトに参加しレジュメデータが存在するユーザーのみを集計対象として、ユーザー全体のうち好きなエディタとして入力された比率を示しています。複数回答可能なので、全てを足すと100%にはなりません。また、表記揺れがひどく、全てを修正しきれていないので、実際の比率より若干低めの値となっています。

好きなエディタ比率

過去の転職ドラフトReportとは集計条件が少し異なりますが、おおむね過去の集計結果と同じ傾向が見られます。Visual Studio Codeが圧倒的ですね。2023年はCopilotが出てきてさらに利用者が増えたのでしょう。Vimは根強い人気です。

好きなエディタ別平均年収

 好きなエディタ別に平均年収を計算すると次のようになります。

好きなエディタ別平均提示年収

Emacsが一番高く、利用者の多いVisual Studio Codeより150万円以上高くなっています。しかし、この結果だけから、Emacsを使っている人はVisual Studio Codeを使っている人より提示年収が高いとは言えません。なぜかというと、Emacsを使っている人のほうが平均年齢が高めなので、単に年齢層が高めだから提示年収が高くなっている可能性があるからです。

 ではどうするかというと、好きなエディタ以外で年収に影響する条件を揃えた状態で提示年収を比較することで、好きなエディタが提示年収に与える効果を調べます。例えば、同一年齢のEmacsユーザーとVisual Studio Codeユーザーの平均年収を比較すれば、年齢の影響を受けずにエディタの影響を知ることができます。今回はこれと同じようなことをCausal Forestという方法を使って行います。

 ここでポイントとなるのは、好きなエディタ以外で提示年収に影響する情報です。提示年収に影響するすべての情報を使うのは難しいですが、大きく影響する情報については条件を揃えるのに使いたいところです。次節ではそれらについて調べてみましょう。

年収の回帰分析

 過去の分析から、提示年収に影響する情報はある程度わかっているので、ここではそれらについて回帰分析を使って確認します。例えば、年齢や業務経験年数は提示年収に大きく影響します。また、時期によって個別の影響度合いは変化するものの、エンジニアリングマネージャやSREのような職種・役割も影響する傾向が見られます。

 年収を目的変数とし、職種・役割と年齢、業務経験年数を説明変数とした回帰分析の回帰係数の信頼区間は次のようになります。なお、職種・役割データは2021年から2023年までのプロジェクトで担った職種・役割の比率になっています。例えば、バックエンドエンジニアしか担っていないならバックエンドエンジニアが1で他の職種・役割は0。バックエンドエンジニアを1回とSREを3回やったなら、バックエンドエンジニアは0.25、SREは0.75です。

提示年収に関する好きなエディタの回帰係数

年齢と業務経験年数も説明変数としているので、年齢や業務経験年数の影響を除去あるいは弱めた結果になっています。係数の大きさだけで言えば、好きなエディタ「なし」が一番ですが信頼区間の幅が広すぎるので参考程度にとどめるのがよいでしょう。年齢と業務経験年数の影響を除いても、Emacs、Vim、IntelliJ IDEAは提示年収にプラス、サクラエディタはマイナスと言えそうです。Visual Studio Codeはどちらでもない。

 ついでに、エディタによる回帰分析も見てみましょう。同じように年収を目的変数とし、エディタと年齢、業務経験年数を説明変数とした回帰分析の回帰係数の信頼区間は次のようになります。

提示年収に関する職種・役割の回帰係数

全般的に信頼区間の幅が広めですが、職種・役割も提示年収に影響していそうなことがわかります。マネージャ職の提示年収が高いです。人気の職種・役割は時期によって変わります。SREやエンジニア採用の提示年収が高いのが最近の傾向でしょう。

好きなエディタが提示年収に与える効果

 では、年齢と業務経験年数、職種・役割の条件を揃えて、エディタ別の提示年収に与える影響を調べてみましょう。結果は次のようになります。なお、詳しい人向けに書いておくと、今回推定しているのはATEです。

好きなエディタが提示年収に与える効果

年齢と業務経験年数、職種・役割の影響を除いても、回帰分析と同じく、Emacs、Vim、IntelliJ IDEAは提示年収にプラス、サクラエディタはマイナスのようです。サクラエディタはWindows用というところで、Webやアプリの企業が多い転職ドラフトでは高い評価が得られにくくなっている可能性があります。また、わずかにマイナスではあるものの、Visual Studio Codeは提示年収に大きな悪影響はなさそうです。なお、回帰分析と比較すると全般的に値がマイナス方向にずれているようです。

 今回の分析に使った手法では、分析に使った年齢等の条件別の影響を推定することもできます。今回のデータの量や質では信頼性の低い結果が多かったものの、興味深いものもあったので少し紹介します。

 年齢別にVisual Studio Codeを好きなエディタとした場合の提示年収への影響を推定すると次のようになりました。

年齢別Visial Studio Codeを好きなエディタとしたときの提示年収効果

この結果は何が面白いかというと、20代後半だとマイナスなのに、30過ぎてからは高くなっているところです。Visual Studio Codeの勢いが増したのは割と最近なので、20代だと多くの人と同じなので普通という評価なものの、年齢が上がるにつれて変化に対応できているというよい評価に変わっている可能性があるのかと思いました。

 バックエンドエンジニアの職種・役割比率別にVisual Studio Codeを好きなエディタとした場合の提示年収への影響を推定すると次のようになりました。

バックエンド比率ごとのVisual Studio Codeを好きなエディタとしたときの提示年収効果

この結果は、バックエンドエンジニアの比率が高まると、Visual Studio Codeを好きなエディタとしたときの提示年収が上がることを表しています。他の職種・役割では見られない特徴です。Visual Studio Codeには、バックエンドエンジニアが使っていると高く評価される機能などがあるのか、それとも偶然なのか。

まとめ

 今回は好きなエディタが提示年収に影響するかについて調べました。年齢と業務経験年数、職種・役割の影響を除いても、Emacs、Vim、IntelliJ IDEAは提示年収にプラス、サクラエディタはマイナスでした。最終的には誤差の範囲に収まるかと思っていたので、個人的には意外な結果でした。単純集計ではVisual Studio Codeを使うと提示年収が大幅に下がるように見えますが、ほとんど影響はないようです。エディタによって提示年収が多少影響を受ける可能性は否定できませんが、職種と比較すると影響は小さいです。提示年収など気にせず、好きなエディタを使うほうがよいと思います。