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見た目と中身、どっちが大事?マッチングアプリknewの因果分析を学会で発表しました

 リブセンスでデータサイエンティストをしている北原です。普段はAnalyticsブログの方に記事を書いています。先月開催された2023年度人工知能学会全国大会で、紹介型マッチングアプリknewの満足度に関する発表をしてきたので、簡単に内容を紹介します。なお、発表タイトルは「提案型オンラインデーティングサービスにおける相手に対する満足度の因果探索」です。

 異性と短時間対面したときに「付き合ってもいい」と思ってもらうためには何が大事だと思いますか?やっぱり見た目なんだろうか。いや、話が面白いほうがモテるんじゃないか。いろいろ意見はあると思います。knewでは5分間のビデオチャットを行なって相手に対する満足度を入力してもらっているので、これらのデータを分析することで異性に好感をもってもらうには何が大事なのかを調べることができます。このあたりを因果探索という方法で調べたのが今回の発表です。

knew.jp

紹介型マッチングアプリknew

 まずknewについて簡単に紹介し、紹介精度を向上させる仕組み、収集データについて順に説明します。

 knewは、対面までの効率と初対面のフィーリングを重視したユニークなサービスになっています。従来のマッチングアプリではプロフィールを見て双方が「いいね」をすればマッチングされます。一方knewでは、紹介された相手と5分間のビデオチャットを行い、双方連絡先交換OKならマッチングされる仕組みになっています。相手の紹介はknewがやってくれます。また、従来は奇跡の一枚や盛れている写真を用意したり、異性に好感をもってもらえる自己PR文章を準備する必要があって大変でした。knewではそれらは必要ありません。ビデオチャットができる通信環境があれば、すぐに使い始めることができます。顔写真が公開されないので知り合いにバレたりすることはほとんどありません。実際に会ってみたら写真と別人ということもありません。

  では、knewはどうやって紹介相手を決めているのでしょうか。knewでは、5分間のビデオチャットを行なった後に、相手に対する満足度や評価、次の紹介への要望を入力してもらっています。これらのデータと、会員登録時のデータに基づいて次の紹介相手を決めています。使い続けるほど、相手への評価や自分への評価が徐々に蓄積されていくので、個々人の好みや異性からの評価がわかります。好みや異性からの評価が明確になるほど、よりよいマッチングがしやすくなるという仕組みです。

 ビデオチャット後には相手に対する様々な情報を入力してもらっていますが、ここでは今回の発表で使った満足度データと一部の評価データのみ紹介します。まとめると下記の表の通りです。全体満足度が高くなる相手を紹介することでマッチング精度を向上させます。

データ種類 データ項目
満足度 全体、容姿、印象・雰囲気、会話、性格、相性
評価 容姿が整っている(容姿整)、容姿が好みか、清潔感があるか

見た目が先か、中身が先か

 ある人に対する満足度は、全体的に高いか低いことが多く、一部の満足度項目だけが飛び抜けて高かったり低かったりするケースは少ないです。つまり、満足度間の相関はかなり高いです。このことはある程度納得がいくとともに疑問に思うところもあります。特に相性満足度について考えてみるとわかると思うのですが、相手がイケメンだったり誠実そうだったりすることと相性には本来それほど強い相関はないと考えられます。おそらく、何かよいあるいは悪いところがあると、それが影響して他の満足度も高くなったり低くなったりするのでしょう。

 そうならば、他に強く影響する満足度項目が何かを知りたくなります。影響力の大きい満足度を向上させる施策を行えば、全体満足度を効率的に上げることができます。

 特に気になるのが、見た目と中身のどちらがもう一方に影響を与えているかというところです。見た目は容姿や印象・雰囲気満足度、中身は会話、性格、相性満足度が対応しています。見た目の影響が大きいならば、外見の好みが合う人を紹介したり、ビデオチャット時の光の当たり方や背景を改善してもらったりなどの施策が考えられます。中身の影響が大きいならば、話が合いそうな人を紹介したり、盛り上がりそうな会話ネタの用意を促したりなどの施策が考えられます。

 どの満足度が他のどの満足度に影響を与えているかという関係は因果探索という方法で調べることができます。今回の発表ではLiNGAMという手法を使っています。

結果

 簡潔にまとめると、外見が中身に影響していることを示唆する結果でした。因果関係を表すグラフは以下の通りです。エッジの方向が影響を与える方向で、エッジについている数値が影響の強さです。例えば、男性では容姿満足度が印象・雰囲気満足度に0.7の影響を与えていることがわかります。

男性の因果グラフ
女性の因果グラフ

 男女ともほぼ同じような因果関係が得られました。満足度間で影響の強いところを見ていくと順に、容姿 => 印象・雰囲気 => 性格 => 相性 => 会話という関係が見られます。容姿がよいと好印象で、好印象だと性格がよさそうと思われて、性格がよさそうだと相性が合うと思われて、相性が合うと思われると会話も満足で、結果的に全体満足度が上がるというわけです。会話で相手を楽しませれば全体満足度は上がるけど、容姿に満足してもらえたら会話も含め他の満足度も一通り向上するので外見を磨くのが重要のようです。容姿満足度が高いと相性満足度も高くなるなど一部おかしな関係も見られますが、この関係を切断すると適合度が下がるのでデータに合う因果関係としてはこれでよいようです。

 男女別に全体満足度に与える総合効果をブートストラップで調べた結果が次のものです。データのばらつきや因果関係も考慮して全体満足度に与える影響を算出したものと考えてください。

男女別総合効果

 男女とも容姿や印象・雰囲気満足度の効果が高いところは共通しているのですが、男女で異なる部分も見られます。男性は容姿が整っているかや清潔感の効果が大きく、女性は容姿が好みかや、性格満足度の効果が大きくなっています。つまり、男性は外見がよくて清潔感のある女性だと満足し、女性は外見が自分の好みに合っていて性格がよい男性だと満足するようです。

 今回の結果は5分間のビデオチャット後に得られたものであるため、外見の影響が過大評価されている可能性があります。そのため、一般的な男女間での評価とは異なる可能性があります。例えば、長時間の会話をしていれば会話の影響が大きくなったかもしれません。5分間のビデオチャットでは、容姿や印象・雰囲気の影響が過度に生じている可能性もあります。このことについてはknew運営でも認識しており、対策を検討中です。

まとめ

 本記事では、2023年度人工知能学会全国大会で発表した、紹介型マッチングアプリknewの満足度間の因果探索の概要を説明しました。容姿や印象・雰囲気のような外面的要素への満足度が、性格、会話、相性といった内面的要素への満足度に影響を与えていることを示唆する結果が得られました。5分間のビデオチャット後の評価であるため、外見が過度に影響している懸念があります。外見の重要性は尊重しつつも、内面的魅力も引き出せるサービスにできればと思います。