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「マッチングは見た目で決まるのか」マッチングアプリknewでの内面と外面の影響分析

 リブセンスでデータサイエンティストをしている北原です。8月末に開催された2023年度行動計量学会第51回大会で、紹介型マッチングアプリknewに関する発表をしていたので、内容の一部を紹介します。

 内容的には「見た目と中身、どっちが大事?」問題第二弾です。内面と外面が連絡先交換や全体満足度に与える影響を分析しました。「どうせ見た目でしょ」と思いますよね。半分正解ですが、半分不正解です。

knew.jp

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紹介型マッチングアプリknew

 以前の記事を見ていない人もいると思うので、簡単にknewについて簡単に説明します。

 knewでは、紹介された相手と5分間のビデオチャットを行い、双方連絡先交換OKならマッチングされます。ビデオチャット後に相手に対する満足度や評価などを入力してもらい、これらのデータと会員登録時のデータに基づいて次の紹介相手を決めています。使い続けるほど個々人の好みや異性からの評価が明確になっていき、よりよいマッチングがしやすくなるという仕組みです。

 満足度や評価データと連絡先交換可否の関係を調べることで、どういうところに魅力があると交際につながりやすいかなどがわかります。このようなことがわかると施策に反映してサービスを改善することができるわけです。通常のマッチングアプリではプロフィールの好みを調べることはできますが、実際に会話したときの相手への評価を調べることは難しいです。一方で、knewでは、オンラインではありますが相手と対面して会話した後の評価データを収集しているので、対面時に近い状況のデータを利用してマッチングを行うことができるという利点があります。また、このようなオンライン対面時の異性に対する大量の評価データは、それ自体データとして貴重でもあります。

内面と外面のモデル

 以前の記事では因果探索を行った結果を紹介しましたが、今回は内面と外面が全体満足度と連絡先交換にどのぐらい影響するかを構造方程式モデリングという方法を使って分析しています。大きな違いは、満足度間の関係を決めているかどうかです。満足度間にどういう関係があるかわからないので、因果探索手法でそれらの関係を調べたのが以前の内容です。今回は、内面と外面の違いを調べるために、内面と外面に関わる満足度の関係をあらかじめ決めています。以前の分析は仮説の探索が目的、今回の分析は仮説の検証が目的といってもよいでしょう。

 構造方程式モデリングは、複数の変数間の関係をモデル化して分析する方法です。データとして収集できない情報を因子としてモデルに組み込むことができるのが特徴です。回帰分析や因子分析を一般化したものとも言えます。回帰モデルでは目的変数は一つですが構造方程式モデルなら目的変数を複数にできます。因子分析では因子間の関係をモデル化できませんが、構造方程式モデルならできます。

 今回作った構造方程式モデルは以下のようなものです。四角はデータがある観測変数です。knewでは、ビデオチャット後に相手に対する様々な満足度や容姿の好みなどの評価情報を収集しているので、それらが観測変数となります。丸はデータがない潜在変数で因子と呼ばれます。一方向の矢印は影響する関係を表し、双方向の矢印は相関を表しています。

構造方程式モデル

 因子というのは観測変数に影響する「よくわからない何か」なので、関連する他の項目との関係から適当な因子名を付けてモデル構造を理解しやすくします。ここでは次のような考えで因子名を付けています。

  • 内面的魅力
    • 性格、会話、相性の満足度に影響
    • 内面に関わる主観的なもの
  • 外面的魅力
    • 容姿、印象・雰囲気の満足度と容姿の好みに影響
    • 外面に関わる主観的なもの
  • (外面的)客観的魅力
    • 容姿が整っているかと清潔感に影響
    • 外面に関わる客観的なもの(いわゆるモテ要素)

おおまかにモデル構造の概要をまとめると以下のようになります。

  1. 清潔感と容姿が整っているかは外面的な客観的魅力で決まる
  2. 容姿の満足度と容姿の好みと印象・雰囲気の満足度は外面的魅力で決まる
  3. 性格の満足度と会話の満足度と相性の満足度は内面的魅力で決まる
  4. 内面的魅力と外面的魅力は客観的魅力からも影響を受ける(イケメンや美女は外面や内面もよく見える)
  5. 全体の満足度と連絡先交換可否は外面的魅力と内面的魅力で決まる

当初は因子を内面的魅力と外面的魅力の二つとし、性格、会話、相性の満足度を説明するのが内面的魅力、それ以外を説明するのが外面的魅力としたモデルを考えていました。しかし、事前に行った探索的因子分析という方法で「清潔感」と「容姿が整っているか」は3つ目の因子としたほうがデータへの適合がよいことがわかったので、因子を3つにしたモデルにしています。性別にかかわらず同じモデルを使っていますが、推定は男女で分けて行っています。推定結果の適合は良好でした(AGFIが0.996)。

結果

 ここでは推定結果のうち、全体満足度と連絡先交換可否に対して、内面的魅力と外面的魅力が与える影響を見てみます。

 まず、全体満足度と連絡先交換可否それぞれに対する内面的魅力と外面的魅力の影響を、女性、男性の順に見てみましょう。

女性の全体満足度と連絡先交換可否に対する内面的魅力と外面的魅力の係数

男性の全体満足度と連絡先交換可否に対する内面的魅力と外面的魅力の係数

男女とも全体満足度については内面的魅力のほうが、連絡先交換可否については外面的魅力のほうが影響が大きいことがわかります。全体満足度と連絡先交換可否で影響するものが異なるのは奇妙な気もしますが、まだはっきりとした理由はわかっていません。全体満足度は交際したいかではなく「いい人」かどうかを表している可能性があるのではと考えています。例えば、性格がよくて「いい人」なので満足ではあるものの、外見はイマイチなので交際はしたくない、といった状況を表しているのかもしれません。

 次に同じ結果を男女で比較してみましょう。内面的魅力と外面的魅力それぞれによる、全体満足度と連絡先交換可否に対する影響の大きさを男女別に並べると以下のようになります。

内面的魅力から全体満足度と連絡先交換可否への係数

外面的魅力から全体満足度と連絡先交換可否への係数

内面的魅力は全体満足度、連絡先交換可否いずれでも女性のほうが大きくなっており、外面的魅力は逆に男性のほうが大きくなっています。予想されたことではありますが、男女を比較した場合、女性はより内面重視、男性はより外面重視と言えそうです。

まとめ

 本記事では、2023年度行動計量学会第51回大会で発表した、紹介型マッチングアプリknewにおいて内面と外面が連絡先交換や全体満足度に与える影響を分析した結果の一部を紹介しました。結果をまとめると以下のようになります。

  1. 男女とも全体満足度は内面的魅力の影響を強く受ける
  2. 男女とも連絡先交換可否は外面的魅力の影響を強く受ける
  3. 女性より男性の方が全体満足度や連絡先交換可否に対する外面的魅力の影響が大きい

交際できるかだけ考えるのであれば外面的魅力を高めるだけでよいかもしれませんが、内面的魅力を高めないと満足してもらえないので交際後のことを考えると内面も軽視できません。結局どちらも大事ということです。